タナトスの誘惑の考察[夜に駆ける]

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最近のBGMは夜に駆けるを色々なバージョンで流している。耳に残るメロディと優しい歌声で初めて聴いた時から一気にハマった。

YouTubeでバズってテレビなんかでも紹介されていましたね。

タナトスの誘惑という短編小説を元に歌われているのですが小説の内容が深いもので個人的解釈を書こうと思う。

簡単に内容をまとめると(ネタバレ含)

主人公はブラック企業に勤めている男性。彼女がいて見た目も声も理想の女性。しかし自殺をほのめかすLINEを送ってくることもしばしば。その度に止めに入る主人公。小説の始まりは8月15日に4度目の自殺をほのめかす連絡がきたところからスタートする。

助けて欲しくて連絡をしてきていると思い込んでいた主人公だが、実は一緒に来て欲しかったという展開。

かなりザックリしているがとても短い小説なので気になる方は是非読んでみてもらいたい。

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タナトスの誘惑の個人的考察

タナトスとはギリシャ神話の死神とされていて、小説内では

性に対する欲求・・・エロス

死に対する欲求・・・タナトス

と説明されていて、タナトスである人は死神が見えるとも説明されている。

彼女はタナトスで死神が見えるようで、その死神はタナトスな人にとって理想的な形に見えるらしい。

彼女はいつも主人公には見えない死神を恋をした表情で見つめているらしく、それに対して主人公は嫉妬している。

どうにか明るい明日を見せようと試みるが何を言っても響かない。ところが自殺を止めている最中に口論となり、つい「僕も死にたいよ」と口走ってしまう。そこで彼女は微笑み主人公は全てを悟るのだ。

個人的解釈では主人公こそがタナトスで彼女は死神だったんだろうな、と。ブラック企業に勤め毎日を憂鬱に過ごす日々。いつしか疲れ切って死に対する欲求が知らず知らず出てきたのではないだろうか。

それでも最初は前向きに明るい明日に期待して、ポジティブな言葉を自分に言い聞かせて明るく過ごそうとした。自分を誤魔化しながらなんとか生きようとしたけど心にモヤがかかったようにスッキリしない毎日。頭では生きようとしているけど心が追いついてなかったのだと思う。

心が限界に達した時、死にたいと正直な気持ちを口にすることで心と頭の中が一致して霧が腫れたような気持ちになった。そうだ、死にたいんだ、と。

彼女=主人公の死にたいと思う心・死神

だから彼女は姿も声も理想的だった。

ちなみに小説では冒頭に8月15日と書かれているが8月15日は聖母の被昇天とされている。

宗教的な話になるが聖母の被昇天とはカトリック教会の用語で、聖母マリアがその人生の終わりに、肉体と霊魂を伴って天国にあげられたという信仰です。

その他、お盆だったり終戦日だったりしますが小説的には聖母の被昇天を表しているのではないかと解釈しています。

聖母の死。聖母は神の母でもありますが、彼女=聖母でもあるのかなと。

全てが理想的な女性というところが聖母を表しているように感じました。

彼女が実在しているのか、主人公にしか見えていない幻覚なのかはわからないですが、個人的には死にたいと思っている主人公の本心を映し出していると思います。

自分自身の中に神がいるとも取れる。

まとめると、日々に疲れ切った主人公が最初は前向きな言葉で自分に生きろと言い続けてきたけど、8月15日に限界を感じて正直な気持ちを口にした。すると自分自身の気持ちに気が付き霧が晴れたような楽な気持ちになれた。そして思うままに夜空に駆ける。

と言うことなのかなと。

実際に主人公と同じような境遇の人も多いように思う。もちろん自殺はいけないことだと思うけど身体が疲れ切っているのに無理して頑張っていると心と身体のバランスが崩れてしまうのも事実。

心に正直に行動しないことで霧がかかったような、モヤモヤとした日々を過ごすことになるのは間違いないだろう。

死に対する欲求という絶望的な内容にも関わらず小説の世界観は切なさと美しさで満たされているのがすごい。私の場合、歌を先に聴いていたので歌のイメージもありますが不思議な世界観で安らぎすら感じてしまうのです。

死に向かう内容なのに不思議と一生懸命生きて行こうと思うのです。

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